日本にはスミレが60種近く自生していて、スミレの宝庫だそうだ。万葉集巻八の「春の野にすみれ摘みに来し吾ぞ野をなつかしみ一夜宿にける」という山部赤人の歌のように、野原でひっそりと咲いている姿を見たのは大分昔のことになった。
日本の野山に咲くスミレも好きだが、これを根っこごと人工の庭に持ってくるのはかわいそう。タキイで日本スミレの苗のセットを買った。
問題は次々に株分けが必要なことで、ちょっとねずみ算的な増え方なのがこわい。
一重の西洋匂いすみれも昔から好き。花も葉もいい匂いがして、可憐な姿かたちにもひかれる。古代都市アテナイのシンボルの花で、結婚式などでこの花の冠をかぶったとか。しかしギリシャ神話にはずいぶんと妙な話がある。ヴィーナスが一群の乙女たちが踊っているのをみて、キューピットに、私とあの女の子たちとどっちがきれい、と聞いて、彼があの女の子たちのほうがきれいといったもんだから、怒ったヴィーナスが乙女たちを紫色になるまでぼこぼこに。それでキューピットが乙女たちを紫色のスミレの花にしたと。男の無責任さがきわだつ痛ーい話である。
ヨーロッパでは春の使者として愛され、春の女神の足跡から春一番のすみれが芽生えるとされる。ウィーンの宮廷では13世紀初、3月にドナウ河の川岸に春の最初のすみれを探しに行き、見つけたすみれを棒の先にさし、そのまわりで踊る習慣があった。ゲーテはいつもポケットにすみれの種をしのばせ散歩の最中に道ばたにまいて歩いたそうで、花ゲリラの元祖といえよう。