昔々のこと、小ぎたない大学生協食堂で青いタマネギと出会った。350円の定食の皿に描かれていたのだ。皿は環境ホルモンの問題ありありのポリプロピレンの安物で、青色で描かれていた模様ははげかけていた。最初は気にもとめていなかったが、何度も食堂を利用するうちには、この変なデザインにもいやおうなく気が付いてしまう。そうだ、私はおかしな花模様だと思ったのだ。
後年、かの皿の模様は、かの有名なドイツ磁器の名品マイセンの伝統的なデザイン、ブルーオニオンの盗用であることに気がついた。もっとも、このデザインはマイセンから発して、さまざまな食器メーカーに変化しつつ取り入れられているので、生協の皿の模様が直接何をまねしたものか、もはやわからない。
マイセン窯は、ドイツのザクセン王に命じられた錬金術師のベッドガーが1709年にヨーロッパ初の硬質磁器の製作に成功したことから始まった。初期のデザインは、東洋磁器のコレクターとして有名であったザクセン王の趣味も反映して、東洋趣味豊かだった。日本の柿右衛門をアレンジしたもの、「インドの花」と呼ばれるインド更紗風の散花紋のデザイン、名からしてそのものずばりの「シノワズリ(中国趣味)」というシリーズ。このブルーオニオンもそうしたものの一つで、1739年にクレッチマーがデザインし、白磁の皿にコパルトブルーで中国の草木を描き出したものが最初だということだ。
タマネギといわれているのは、実は子孫繁栄の意味のあるザクロ。あと長寿をあらわすという桃や、竹・蓮・芍薬などが象徴的に描かれている。モチーフはゲオルグ・マイスターの『東洋の美術と植物家』という本から取られたということだ。しかし各々の模様はそれと知らなければわからないほどデザイン化されており、現在のわれわれには東洋風とはすでに思えない。東洋と西洋のデザインの融合された不思議な模様は、二百年以上を生き抜き、極東アジアのしがない大学生協の食堂でさえ制覇したのである。 2001.03