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唐子模様
 絵画や図などを読み解くのが流行っている。歴史学でも、二十年くらい前から、絵巻物などの隠された意味とか視線とかを解釈する研究が進んでいるが、何のことはない、昔も絵解き(えとき)といって地獄絵とかを前におどろおどろしく説明して、善良な人々を脅しつけるパフォーマンスがあった。坊さんもしたが、サーカスなんかでも「親の因果が子にたたり」なんてやっていた。最近は歴史学だけでなく、美術史でも「図像学」(イコノグラフィiconography)といって、画像(eikon、ギリシャ語でイコン、ギリシャ正教の聖像や、コンピュータのアイコンもこれからきている)を記述(grapho)する分野が盛んだ。絵画は「美」だけじゃなくて、ちゃんと「意味」を持っている。そうした隠された意味を探ることは結構楽しい。

 「唐子(からこ)」模様は中華や和風の食器などによく付いている。唐(から)は中国、その「子」なので、中国の子供という意味だが、見たとおり楽しげに遊んでいる。私は学生時代に旅行した長崎県平戸の平戸焼のコーヒーカップでこの模様に出会って以来、結構好きで集めているが、なかなか気に入ったものはない。あまりファンシーなのはだめとか、イロイロこだわりがあるからである。
この唐子模様は中国のデザインだと長い間思っていた。しかしそれは誤っていたらしい。皆川美恵子氏の「唐子論」(『わたしたちの「江戸」』新曜社1980に所収)によれば、この模様は日本で作られたものなのである。そして、日本人にインスピレーションを与えたのは、日本を訪れた朝鮮通信使の行列に供奉して、ラッパやドラにあわせて舞を舞った朝鮮の「冠童」とか「童子」とかいわれる少年たちだったという。絵朝鮮通信使の一行が江戸に向かう長い旅行中、日本人はエキゾチックで珍しい異国の少年たちに見ほれ、そしてそれが「唐子模様」というデザインを生んだのだ。この模様は、鎖国下で生きた江戸時代の民衆たちの異国に対する夢のひとつのかたちなのである。
だから、唐子の子供たちには、楽しげな「笑み」を浮かべていてほしい。またその風俗が本当に「唐」のものであるかどうかは問題ではない。それは永遠の「夢」なのだから。1999.08